第二次世界大戦中のことです。小学校の高学年だった私は、毎年学校で行われる新年の行事に出かけ、校長先生の号令いっか、東を向いて宮城(皇居)の遙拝。そして、さらに東西南北の方に鎮座されていると言われる四方神に向かっての四方拝。後で聞いたことですが、この四方拝は、宮中行事で天皇が毎年1月1日の寅の刻に束帯を着して清涼殿の東庭の出御され、天地四方などを拝して五穀豊穣などを祈願される儀式だそうで、明治以降には、宇治の皇大神宮、豊受大神宮、そして四方の諸神を拝することに改められたとされています。この四方拝が、これから述べようとする玄武、青(蒼)龍、朱雀、白虎に相当するのかどうかに付いて私には不明ですが。遠い昔、奈良町時代の都大路の南端にあった大門は朱雀門。この門を北に上る大路が朱雀大路でした。
ところで、古代中国にもこの四方神の考えがあったようで、星空を二十八に分割して置かれた二十八宿を、宿の順番に沿って四つに分割し七つの宿をそれぞれ北方、東方、南方、西方に対応させました。今回はそのうちの北方神と北方の星宿。この星宿は、東から始まり北で終わるのですが、何事も北が基準と言う訳で北方宿から始めようと思います。
北方宿(玄武:げんぶ) 冬
宿名 読み 現在の星座
8.斗 と いて座
9.牛 ぎゅう やぎ座
10.女 じょ みずがめ座
11.虚 きょ みずがめ座
12.危 き みずがめ座
13.室 しつ ペガスス座
14.壁 へき ペガスス座
この星宿に含まれる現在の星座を見比べると、北方とは全く無関係に選ばれています。
星宿の英語名はLunar Mansionで、月の移動を知る手立てとして考えられたものです。つまり、月は約29日から30日で満ち欠けを繰り返します。この月がどの星のところに有るか、という問いに応えるために作られ、最初は29の宿に別けられていたそうです。もっとも、この考えは古代インドを源にして中国に伝わったそうですが、29は4で割り切れません。そこで、考えたのが28に分割する事だったらしい、と言う事です。天球を4分割して七つの宿を東西南北の方位に当てはめたのでしょう。
神奈川県の小田原市の北に大雄山最乗寺と言う古刹があります。かなり高い場所に建てられたお寺で、通常ならお寺の参道や修験道のお山には参道の途中に歩いた距離を表す○○合目という標識が建てられているのですが、この最乗寺にはこの合目を表すために星宿名が彫られた石柱が立てられています。すなわち、東方宿から始まり南、西、北へと続きます。1合目が角宿、2合目が亢宿と言う訳です。これらの宿については、登場する時に順次説明したいと思います。
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