6月も末になると日本は梅雨の最盛期。星の輝く夜空はどうしても疎遠になりがちです。その梅雨空の一寸した晴れ間に見えるのが「うしかい座」。学名は「Bootes」です。ところで梅雨時に足元を守ってくれるのが「Boots」ブーツで長靴。Bootesが夜空に懸かるようになると「Boots」の出番です。よく似た綴りですね。しかし星座の伝説では、自分の牛を守るために猟犬をつれて大熊を追いかけています。大熊座、猟犬座、うしかい座とつながる星座は初夏の夜空の半分近くを占めていて、あたかも夜空で繰り広げられる「追いかけっこ」のようです。北極星を巡って、大熊座が地平線の下に入って冬眠を始めるまで続きます。この星座で最も明るいのが金色に見える主星・アークツルスです。
私の少年時代のこと。近所の古老が「あの金色の星が夕空に輝く頃には麦の収穫が始まる」と教えてくれました。そして、その星を「麦星」と呼ぶことも。この星が、うしかい座の主星・アークツルスだったのです。この星が夕方の空で輝くのを見ると、古老のこの話を思い出します。
麦秋の 夜空に一つ 金の星。 香西蒼天
金の星 夜空にありて 麦の秋。 香西蒼天
近くに明るい星が無いことも、この麦星を目立たせる理由かも知れませんが、梅雨空の一時の晴れ間から金色に輝く麦星を見たときは、一瞬、新星か超新星か、と感じるほどです。
この星座を見ると思い出すのは、ネクタイ。隣の星座「かんむり座」と合わせて、ネクタイとネックレス。彼と彼女の見事なペアルックです。
アークツルスで忘れてはいけないのは、春の大曲線を作る星の一つだと言うことです。おおぐま座の北斗七星のカーブを延長するとこのアークツルスを経ておとめ座のスピカに達します。おとめ座は言わずと知れた収穫の女神。そして手に持つのは麦の穂の束です。こうすると、アークツルスもスピカも麦星。麦秋を象徴するような星達ですね。
春の夜の おぼろに霞む 星二つ。 香西蒼天
「しし座」と「うしかい座」に挟まれているのが「かみのけ座」。明るい星が無いので、見つけにくいと感じる人が多いのですが、月のない良く晴れた夜に目をこらすと、何かボーッと広がったものがある事に気づきます。これがその「かみのけ座」です。そして、ボーッとした明るさが、天の川銀河(銀河系)の外側にある「銀河」の集団で、「かみのけ座銀河団」とも呼ばれているものなのです。肉眼では、ボーッとしか見えませんが、大きな口径の望遠鏡で写真を撮影すると、それこそ数百数千の銀河がある事に気づきます。
この付近は、天の川から遠く離れていて銀河座標では高緯度なので天の川銀河のガス状天体が少なくて遠くが見通せるのです。この銀河団を研究することで、大宇宙の姿が知られるようになりました。例えてみれば、霞が晴れて遠くの山並みが見え始めるように見通しが効くために遠方まで見ることができるのです。
晴れ間から 見通して知る 大宇宙。 香西蒼天
夜、星が見づらくなったと言われるのは、地球大気が塵埃などで汚染されているからです。汚染の源を取り去ると、元の清澄な夜空が返って来るでしょう。
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