天文セミナー 第186回

『星の歳時記』



18.ペルセウス

1991年の夏。焼け付くような真夏の太陽に炙られながら私はトルコの古代遺跡として知られるエフェソスにいました。古代ローマがトルコに進出して各地に残していた遺跡の一つです。大理石を敷き詰めたメインロードの周囲には、ローマ時代の建築物の遺跡が建ち並び、通りを進んでいくと、その遺跡の中にギリシャ神話やローマ神話に登場する人物や動物を見つけることが出来ます。イエスの教えを広めた使徒の一人・パウロが新約聖書の「コリント人への書」を執筆したと言われる大図書館の遺跡がメインロードの正面に聳(そび)えます。そこに行くまでの通りの両側には無数の遺跡の残骸。
 その中に見つけたのが、獅子の首を持つヘラクレスと、メドゥサの首を手に持ったペルセウス。メドゥサの首は神殿の門と思われる建物の梁に造られていて、道行く人を見下ろします。振り乱した髪の毛、大きく見開いた眼。見た人を石にするという伝説どおりの姿形ち。一瞬、ドキッとしましたが足を止めてじっくりと眺めました。
 このメドゥサの首をもって、アンドロメダ姫を救ったのがペルセウス。秋の天の川にどっぷりと身を浸します。大きな、ローマ字のKを思わせる星の並びです。ギリシャ神話に登場するエチオピアの王家の物語は、読者の皆さんはすでにご存じと思います。
 そこで、話題はメドゥサの首。ゴルゴンと呼ぶ、かつては美しい三人の姉妹でしたが、末娘のメドゥサがポセイドン(海の神:ネプチューン)の求愛を受けアテナ(知恵の女神)の嫉妬をかき立てたので、アテナはメドゥサを考えられる限りの醜い姿に変えました。髪の毛は蛇、飛び出した大きな目、鱗のような体と真鍮の翼と鈎のような爪でした。この姿を見たものは総て石になります。アテナに抗議した姉たちも同じように怪物にされました。
このメドゥサの目に相当する場所にあるのが「悪魔の星」と呼ばれる、明るさの変わる星アルゴルです。食変光星の代表です。

  燃える夏  メドゥサの目に  見据えられ      香西蒼天

 最近、恒星に惑星が見つかり、知的生命体の存在を云々されるようになりました。そして、惑星を伴う恒星がすでに600個も発見されています。このような、惑星を伴う恒星を見つける方法として最も多く用いられているのが、恒星の明るさの変化です。アルゴルの変光の仕組みは、すでにご存じのように、明るい星の周りを回る暗い星があって、暗い星が明るい星の前、つまり観測者の方向に来て明るい星を隠すことが原因です。或る意味では、日食と同じ現象ですね。この現象を、敏感な検出器で検出して明るい恒星が暗い星に隠されるのを観測するのです。アルゴルも、食変光星で、その変光現象はモンタナリによって1667年に記録されていました。この変光の仕組みを応用して、惑星系を持つ恒星探しが、多くの研究者によって実施されているのです。

  メドゥサの目  明るさを変え   星の系        香西蒼天

 惑星を伴う恒星に、知的生命体が見つかるかも知れませんね。


2012年12月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2012年12月の星空です
秋の四辺形が頭の真上から西寄りとなり、東の空には冬の星たちが
昇ってきました。秋の星空には明るい星が少ないのですが、冬の星を
目印に秋の星に後戻りをすると見つけやすいかもしれません。


次 回も、お楽しみに

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