「・・・・だがあの小熊どもを狩りたてるには用心せねばならぬ、少しでも臭いをかぎつけると母熊が目を覚ます。 あの母熊はライオンと深い仲になっている、そしてあおむけに寝転がってうまく気をそらせておいて、ライオンが眠り込むと後は好きなことをやっている。・・・」。イギリスの文豪ウイリアム・シェイクスピアの戯曲タイタス・アンドロニカスの第四幕第一場のタイタス邸の庭の場面でのタイタスの台詞です。
ここに登場するのは小熊、母熊、そしてライオン。小熊はこぐま座、母熊はおおぐま座、そしてライオンは当然ながらしし座ですね。春の代表的な大型星座のオンパレード。これに小獅子、うみへび、山猫、猟犬、少し離れた蟹を加えれば、そこには何と春の夜空の動物園が繰り広げられるのです。動物園は何も陸生動物ばかりではありません。水生動物を一緒に飼育していても少しも不自然ではありません。
それにしても、シェイクスピアの星座に関する博識には脱帽です。改めて、夜空でのこれらの星座を思い浮かべてみましょう。小熊を背負った母熊(大熊)、その足元には獅子座の背中に乗った小獅子。獅子が狙うのは蟹ですね。
このことを念頭に入れておくことにしましょう。そして、シェイクスピアが活躍したイギリスのロンドン。シェイクスピアはイギリスから外へは一歩も出たことが無いと言われています。そこでこのロンドンの緯度は北緯52度。北緯52度の地では北極星の地平線からの高さは52度ですね。そして天頂を通る星は赤緯北52度になりますね。赤緯52度の緯度線はなんと大熊座と獅子座の中間を通っているのです。
ここで先ほどのタイタスの台詞「母熊はあおむけに寝転がって・・・」。この台詞通りに大熊座は足を天頂に向けあおむけになって東の空から西の空へと巡って行くのです。そして、獅子座はと言えばちゃんと足を南に向けて正立しています。どうです、如何ですか。シェイクスピアは、彼の作品37編の至る所に星または天体に関するような台詞を潜ませているのです。
春の夜の 静寂(しじま)を巡る 動物園 香西蒼天
春告げる 星動物園の 熊と獅子 香西蒼天
熊の親子と獅子の親子が、夜空という広場を仲良く巡って行く姿は何となく入学式に行く親子連れを思い浮かばせます。
獅子座の主星レグルスはちょうど黄道にあります。従って今までには数え切れないほど太陽や月、そして惑星に隠されたことでしょう。さらに、星座が作られた頃を考えるとき、今から400年ほど前には、地球の歳差運動のために夏至の太陽はこの獅子座で輝いていて、獅子の心臓レグルスの熱い血をさらに沸き立てていたのかも知れません。
レグルスの 熱き血潮よ 夏至の日の 香西洋樹
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