天文セミナー 第176回

『星の歳時記』



8.天の大河  エリダヌス座

 2月になると、中天の夜空に架かるのは冬の王者オリオン。決して捕らえることができないプレアデス(すばる)姉妹を、何時までも際限なく追いかけます。この、オリオンやプレアデス(すばる)に纏わる日本の神話。一寸した謎解きが必要になります。日本の古典、日本書紀や古事記によるお話です。現在のオリオン座は、その中央にある三つ星がちょうど天の赤道にあります。従って、真東から上り、真西に沈みます。大昔でなければ天球の座標はそれほど変化していないかも知れません。そこで試しに西暦前100年ほど遡ることにして計算してみますと、三つ星の赤緯はマイナス5度程だと言うことが判ります。(天文学って面白いでしょう。一種の考古学にも通じますね)。

 九州福岡県にある宗像市には宗像大社があります。そしてその祭神は田心(たごり)姫神、湍津(たぎつ)姫神、市杵(いちき)島姫神の三女神で、それぞれ沖津宮、中津宮、辺津宮に祀られていてこの三宮の総称が宗像大社です。日本書紀、神代上、第六段にこれら三女神の誕生の物語を見ることができます。この三女神をオリオンの三つ星に例えるとどうでしょう。想像をたくましくするとき、そこにオリオンの三つ星こそ宗像大社の三女神を見ることができますね。さらに、真東に近い場所から上り真西に沈むことを考えると、日々の生まれ変わり。すなわち甦りとも考えられ、序でに日本民族が渡来してきたとされる地の一つ、西の地を指すのではないかとも考えられます。

 一寸した、日本書紀の物語の謎解きでした。すばるに付いても、日本書紀の同じところに、御統(みすまる)と書かれていて、文字の示すように纏める、統べる、総べるの意味があるのです。

これらは、アマテラス大神とスサノウ尊が天の安の河で交わした誓約(やすかわのうけい)での出来事のこと、そしてさらに天の真名井も登場します。安川にしても真名井にしても、水に関わる名前。さらに、禊ぎは筑紫の日向の橘の小門(おど)の阿波岐原での水浴び。水と縁が切れません。

天の安川での誓約

  スサノウと 誓約(うけい)を交わす アマテラス     香西 蒼天

 お話は佳境に入ってきましたが、標題のエリダヌスを忘れるわけには行きません。オリオン座の西にくねくねと南に向かって並ぶ3等級ほどの星の流れで、昔から河として知られていました。最も有名なのが、ギリシャ神話の太陽の神ヘリオスと美しいことで知られるクリュメネの間に生まれた勝ち気な男の子。この子の名前はパエトン。小惑星3200番に名前を残していますね。このパエトンが父親との約束を破って墜落したのがエリダヌス河。ギリシャ神話を読んでみてください。

 さて、ここで日本神話の天の安川とギリシャ神話のエリダヌス河。天の安川は天の川とも言われ、太古から親しまれていています。またエリダヌス河もナイル川ともユーフラテス川ともドナウ川とも言われていますがいずれにしても大河に変わりはありません。

パエトンの墜落

 パエトンの 太陽の軌道(みち)

              踏み外し  (エリダヌス川)  香西 蒼天

オリオンに何時までも追いかけられるプレアデス(すばる)は今後どうなるでしょう。

 余談になりますが、今年のNHK大河ドラマの平清盛が創建したと言われる厳島神社のご祭神は、宗像三女神(市杵島姫命、田心姫命、湍津姫命)なのです。


2012年2月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2012年2月の星空です
夕方南西の空に金星が見えています。
木星との離れ具合が少しずつ小さくなっていきますので、
金星と木星の位置に注目してください。
南から東の空には、冬の星でいっぱいです。
明るい星が多いので星空が賑やかです。


次 回も、お楽しみに

天文セミナーに戻る