天文セミナー 第172回

『星の歳時記』



4.大火 さそり座

 銀河系の中心方向と言われる射手座。半人半馬の姿で描かれていますね。その東にあるのが山羊座。逆三角形で半ヤギ半魚の姿で天に懸かっています。ギリシャ神話のパンは、上半身は人間の姿で豊富なあごひげをたくわえ、額からはヤギの角が生えています。そして下半身はヤギの姿で足にはひずめを持っているという牧人と家畜の神様です。このパンは足の速い伝令の神ヘルメスの子でした。成長したパンは、身軽に野山を駆け巡り毎日ニンフ(妖精)達を追いかけ、その中のシュリンクスは彼に川岸まで追い詰められ葦に変身してしまいました。パンは、風にそよぐ葦が奏でる音楽を聴き葦笛シュリンクスの笛を作り長く愛用したそうです。ニンフ達を追い回して疲れるとパンは木陰で昼寝をするのが日課で、この昼寝の邪魔をすると怒り狂ったようになり人も動物もさらに神々さえも恐怖に震えたのでした。このパンの怒りがパニックの語源になったそうで、恐怖や混乱を表す言葉としてしばしば使われますね。一方、フランスの作曲家クロード・ドビュッシーが1892年から1894年にかけて作曲した管弦楽に「牧神の午後への前奏曲」があります。この曲は、詩人マラルメの作品「牧神の午後(半獣神の午後)」の影響を受けて書かれたと言われています。内容は、牧神の象徴「パンの笛(シュリンクスの笛)」がイメージされていてドビュッシーの音楽にも強い影響を与えています。つまりパンは、恐怖の神であると共に音楽の、特にフルートの神とも思われていたのでした。そこで一句。

 フルートの 豊かな音色 秋の暮れ   香西蒼天

 フルートの音色に聴き惚れている内に夜も次第に更けていきます。10月にもなると、そろそろ冬支度が始まることでしょう。そして実りの秋でもありますね。豊かな実りを支えてくれるのも牧神なのかも知れません。

 ところで、天球を思い出してみませんか。星々の位置を表す座標には赤道座標、黄道座標、銀河座標などがあってそれぞれ独立に使われるようです。先ず赤道座標は、地球の自転軸=地軸を南北に延長して天球と交わるところを天の北極と南極とします。そして地球の赤道の大円を延長して天球と交わる大円を天の赤道として、南北両極と赤道の間を90等分して緯度を決め、春分の時の太陽の位置を春分点として経度を決めます。こうして地球と天球の関係を定めています。そして、夏至の時に太陽がある場所が夏至点、冬至の太陽がある場所が冬至点です。いずれも赤道から最も離れた場所で、地球上では南北の回帰線と呼びますね。北回帰線は、台湾の嘉儀と言う都市の近くを通っていて、私も1980年代に記念碑をみてきました。欧米の地球儀には北回帰線を「かに座の回帰線:Tropic of Cancer」、南回帰線は「やぎ座の回帰線:Tropic of Capricorn」と書いてあります。これは夏至点がかに座に、冬至点がやぎ座にあったことを示しているのです。

 古(いにしえ)の 2至点(夏至点、冬至点)残す かにとヤギ  香西蒼天

 現在の夏至点と冬至点のある星座とを比べることによって、この名前が付けられた時代を知ることができるのです。これも、星空に残された世界文化遺産の一つですね。


2011年10月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2011年10月の星空です
東の空に、ひときわ明るい星が見えています。
私たちの太陽系最大の惑星・木星です。ゼウスを表す
木星の輝きは、まさに「王様」という感じでしょうか。
夏の大三角と秋の四辺形を元に、まわりの星空をめぐりましょう。
特に秋の星空は、映画「タイタンの戦い」に描かれたように
壮大な一つの神話に登場する人物などが星座になっていて、
物語と合わせて星空めぐりをすると楽しいでしょう。


次 回も、お楽しみに

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