天文セミナー 第149回

『日本の天文の歴史(W)』『日本の望遠鏡(W)』



日本の天文の歴史(W)

 さて、これから日本の天文台の歴史を簡単に述べることになるのですが、皆さん天文台の台とは何でしょう。私が、現役時代を過ごしたのは当時の東京大学東京天文台(現・国立天文台)でした。ある日、見学に来た人たちの中の1人が、不審そうに周囲を見回して「天文台は何処にあるのでしょうか」と聞き出したのです。天文台という場所に居ながら、天文台の所在地を尋ねるのでした。誰でもが不思議に思うことの一つに、天文台の台のことのようです。このシリーズの2回目を思い出してください。日本での最初の占星台、中国での天文台。いずれも盛り土の高台が観測場所に選ばれていますね。この台が天文台のルーツで、現在では天体観測を行っている施設そのものを天文台と称しているのです。気象台にしても、気象を観測する器具が置かれていた露台が名称のルーツになっているはずです。
 渋川春海が天文台と称する施設を神田駿河台に設置したことは前回に書きましたが、この天文台も長くは続かず、1746年に幕府は神田佐久間町に改めて天文台を開きました。しかし、この天文台も1757年には撤去されてしまいます。暦の作成の為のみに天文台が作られ、廃棄されていたことを物語るものですね。1763年には、9月の日食の予報に失敗したため1765年に牛込に新しく新暦調御用所を設置し、この施設が暦の修正後も存続し、天体観測に立ち木などが差しさわりがあるとして1782に浅草へ移転することになるのです。この浅草の天文台がいわゆる幕府の浅草天文台で、葛飾北斎の富岳百景の一つとしてよく知られている浅草鳥越の図で見るとおりなのです。1797年に採択された寛政暦はこの浅草天文台に勤務していた幕府天文方によって完成したのでした。寛政の改暦に伴う観測の一部は九段坂上に作られた渋川家の専用の天文台で行われ、その機械類は幕府の消滅と共に東京大学の前身の一部に当る開成学校に引き渡されたといわれています。こうして旧幕時代の天文台は消滅したのですが明治10年に内務省地理局が赤坂に天文台を、文部省が現在の東京大学の地に観象台を、海軍は麻布飯倉に観測地を開いたのでした。こうして、日本でのいわゆる天文学が芽生えてきたのでした。
関連する小惑星(3290):Azabu(麻布)。


日本の望遠鏡(W)

 ところで、日本に望遠鏡が渡来したのはいつ頃のことでしょう。リッペルスハイが発明し、ガリレオが天体を観測したのが1609年。日本にはまだ到底その様な情報は入っていませんでした。しかし、それほど遅くはなかったとも考えられています。日本で、本格的な遠眼鏡が造られ使用され始めたのは、泉州の岩橋善兵衛(1756から1811年)や、近江の国の鉄砲鍛冶・国友藤兵衛(一貫斉)(1778から1840年)による功績がもっともよく知られています。国友藤兵衛は、鉄砲鍛冶でしたがその技術を使って望遠鏡を作ることを考え、中でも金属の反射鏡を使い反射望遠鏡を製作しています。さらに、彼は自作の望遠鏡を使って太陽や月などの天体観測を行っていて、いわば望遠鏡による天体観測の日本での始祖とも言えるような業績を残しています。また、岩橋善兵衛は、もっぱらレンズを使った屈折望遠鏡を製作し、販売しています。この2人のほかにも幾人かの先覚者が望遠鏡を製作し、実用に供していることが知られています。特に、実地に使用した例としては伊能忠敬による日本全国の測量の時に目的の場所の確認や、星の観測による経緯度の測定に使われ、高い精度で日本地図を作り上げたのでした。
 本格的な天体観測のための望遠鏡は、明治維新を待たねばなりません。日本の天文の歴史にも書きましたように、江戸幕府の天文台で使われていたのは、旧来の望遠鏡であって視野は狭く架台にも問題があり、高精度を求める天体観測には性能としても不十分だったのです。日本が明治時代になり、最も重視したのが西洋の文化・文明の移入でした。そのために、お雇い外国人と称される人たちの招聘と、彼らの助言でした。しかし、それに先立ち日本の新政府が外国視察を試み派遣したのが岩倉使節団でした。この使節団は、多くの新知識を移入すると共に各種の新発明の器具も輸入したのでした。この使節団によってもたらされた天体観測機器の中の一つに、私が在職中にも東京天文台で使われていた望遠鏡がありました。口径8インチ(20cm)の屈折望遠鏡で、銘板にイングランド・ロンドンと記入されていました。そして、この望遠鏡は現在、東京上野の国立科学博物館に保存されていて往時を忍ばせてくれています。
関連する小惑星(6100):Kunitomoikkansai(国友一貫斉)、(7538):Zenbei(岩橋善兵衛)、(9255):Inoutadataka(伊能忠敬)。



2009年11月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2009年11月の星空です。
今年は世界天文年2009です。
日没がずいぶんと早くなりました。
西の空には夏の星たち、そして東の空には冬の星たちが見えます。
間に挟まれた秋の星たちには明るい星が少ないので、
どこかさびしさを感じます。


次回も、お楽しみに

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