日食物語の二回目は、タイに行くことにしましょう。タイなどの東南アジアの神話は、前回に登場した古代インドの神話に強く影響されていると言われています。
1995年10月24日、タイ国の南部で皆既日食が観測された時のことです。私は、多くの人たちと共に、この日食を観望するために出かけました。観測地に着き、観測の準備をしているとき、黄色い僧服を着た一団の僧侶が隊列を整えてやって来ました。どうしたことだろうか?と不審に思いながら皆既が始まるのを待っていました。やがて皆既が始まりました。僧侶の一団は、蝕まれる太陽に向かって、一斉に手を合わせ読経を始めたのでした。きっと、太陽を蝕む悪霊の退散をお祈りしていたのだろうと思いました。そして、皆既も終わり、日食が終わると、再び隊列を整えていずこともなく帰って行ったのでした。その僧侶の集団の中の1人が僧服の懐から当時はあまり普及していたとは思えないビデオカメラを取り出し、撮影を始めたのが何とも不釣り合いの情景でした。思い出しても、とても愉快な光景です。
さて、タイでもインドと同じように太陽と月とラフが登場します。彼らは地上で暮らす人間の三人兄弟でした。長兄の太陽は毎日僧侶に黄金を施し物とし、次兄の月は銀を施し物としていましたが、末弟のラフは汚れた鉢に少量の米を入れて施すことしかしませんでした。やがて、この三人の兄弟が死ぬと、長兄と次兄は天に昇って太陽と月になり神々の仲間入りをしましたが、末弟のラフは腕と爪しかない真っ黒の怪物になりました。末弟のラフは兄たちをねたみ、彼たちを追っかけ襲いかかりそして飲み込もうとすると言われていて、これが日食と月食だ、と伝えられているそうです。
日本の神話「古事記」と「日本書紀」が伝える神話や伝説にも天照大神(太陽)と月読命(月)にスサノオ命という粗暴な弟神の三神が伝えられていますが、この話などはタイの三人兄弟の話によく似ていると思いませんか。
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