天文セミナー 第129回

『春分と新年』『宇宙から宇宙を見る』



春分と新年

 運動会などで行われるトラック競走もスタートラインが決まれば、ゴールラインは問題なく決められますね。ところで、先月と先々月にも書きましたように現在の暦の年初が決められるまでは、各地で言わば勝手な年初が使われていたのです。しかし、その背景には季節に関わるものや宗教的な背景をもつものなど、多種さまざまでした。
 エジプトでは古くから太陽暦が使われ、1年の長さを365日と4分の1としていました。そして、おおいぬ座の主星シリウス(天狼星)が太陽と同時に上る日を年初とすることにしていました。エジプトの暦の1年は洪水、播種、収穫の3つの季節から成っていてシリウスと太陽が同時に上る日が洪水期の始まりで、この日が年初と言うわけでした。
 先月にも見てきたように、ヨーロッパでも日本でも現在の3月を年初とするような習慣が長い間続いていました。これは、やはり立春とか春分を含む月に農作業が開始されることに関係していると考えられていて、季節の変化に最も関心が深いのは基本的に農耕民族で、狩猟民族に於いてはそれほどでもないことが知られています。したがって、農耕民族と言われるアジア諸国は立春正月と呼ぶ慣わしがあり、この日を立春節として祝う習慣が残されているそうです。日本で昔使われていた旧暦、つまり太陰太陽暦のことを現在でも中国圏では農(業)暦と呼んで実際に使用しているようです。
 ところで、実際の暦とは違った使われ方をするのが、いわゆる会計年度などと呼ばれる特別の年初があります。日本の会計年度や学制の年初は4月1日、アメリカでは7月1日から会計年度が始まり学年度は9月1日に始まります。また、現在では満年齢で年齢を数えますが以前は数え年と称して年初を基点として年齢を数えていました。さらに、お米の収穫を基準にした米穀年度や、小豆などの収穫を元にした年度もありました。これら幾つかの基準を設けてそれぞれに○○年度とする習慣もあって複雑な反面、生活に基づいた数え方が使われてきたのでした。


宇宙から宇宙を見る

 さて、先月もお話しましたように日本の人工衛星観測網の設立は、ソ連の打ち上げに間に合いません。そこで、即席の観測機器を手作りで作り上げて時刻と方位角、及び高度角を観測することになり、われわれ担当者は夕刻と早朝の薄明時に太陽光を反射しながら西から東に向かって星々の間を移動する衛星の光点を見続けたのです。
 アメリカは、自国の衛星観測のために特殊の光学系を持つカメラを新しく開発し、世界の数箇所に配置しました。このカメラは、設計者と製作者の名前から、ベーカー・ナン・シュミットカメラと呼ばれたのです。余談ですが、このカメラは三鷹の東京天文台本部に設置され観測が続けられたのですが、三鷹の観測環境の悪化と、新しく1963年に埼玉県の堂平観測所が開設されたことにより、この堂平観測所に移設され永年使用されましたが、現在は引退して兵庫県姫路市の姫路市立科学館に展示されています。このベーカー・ナン・シュミットカメラが三鷹の東京天文台に到着したのが1958年冬のこと。2人のアメリカ人によって組み立てと調整が行われました。この調整の最中の4月1日、東京は季節外れの大雪に見舞われ、薄着のアメリカ人は寒さに震えていたことが思い出されます。
 ベーカー・ナン・シュミットカメラは、通常の赤道儀や経緯儀とは異なる3軸の回転軸を持ち、天球を移動する高速(恒星に比べて)の人工衛星を追跡し、回転翼で軌跡を切断して精度の高い時刻をフイルム上に焼き付ける方法がとられていました。光学系は、特殊なガラス材を組み合わせた3枚構成で口径50cm、焦点距離も50cm、つまり口径比は1というそれまでにないような明るい光学系でした。さらに、この観測で使用されることを目的に編集されたのがSAO星表と星図でした。それまでは一様な精度で作られた、全天をカバーする星表も星図もなかった不便さが一気に解消されたのでした。
 観測の結果は、アメリカのスミソニアン天文台に集約され解析されたのです。そしてその解析の責任者が、彗星研究で有名なホイップル博士であったことも偶然ではありませんでした。ホイップル博士は、小惑星や彗星の研究で名高く、従って惑星などの軌道決定に熟知されていたからです。
 こうして、人工衛星が次々に打ち上げられると、地球のことだけでなくほかの天体、特に人工衛星に重力の影響を与える惑星たちのことも知られるようになり、軌道解析から地球や月の形状が詳しく知られるようになりました。(続く)。




2008年3月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2008年3月の星空です。

冬の代表的な星座・オリオン座が西の空に傾き始めました。
春の星座がよく見えるようになり、季節の移り変わりを感じます。
夜明けが早くなり、日没もずいぶんと遅くなってきました。

天文カレンダー 惑星たち
   
3日: ひな祭り(桃の節句)
月の近くに木星が見える(明け方南東)
この頃水星が明け方南東の低空に見える(西方最大離角)
5日: 啓蟄(太陽黄経345°)
6日 月の近くに金星が見える(明け方南東低空)
8日 新月●
12日: 月の近くにプレアデス星団が見える(夕方西)
14日: 上弦(半月)
15日 月の近くに火星が見える
19日 月の近くに土星が見える
20日: 春分の日(太陽黄経0°)
22日: 満月○
30日: 下弦(半月)
31日: 月の近くに木星が見える(明け方)
水星: 上旬に夜明け前に東の空に見えます。5日・6日は月と金星に接近します。
金星: 夜明け前の東空に見えます。
火星: ふたご座にあります。日をおいて観察すると移動しているのがわかります。
木星: 夜明け前の東空に見えます。いて座にあります。
土星: しし座にあります。観望に適した時期になってきました。環の傾きに注目。

次回も、お楽しみに

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