天文セミナー 第125回

『モノクロとカラー』『神々のたそがれ(北欧伝説)』



モノクロとカラー

 モノクロームとカラー。今ではほとんど馴染みが薄くなってしまったモノクローム。いわゆる黒と白だけの情報で作られる写真やテレビ画面のことです。モノクロームとは、単色とも書き表すことがあるほどで、人間の視覚はカラーなのにもかかわらず、長い間この黒白の世界になじんできました。カラー写真が無い頃、普通の写真では人の手で着色した着色写真さえ作られたほどでした。また、テレビがカラーになったときなど、その美しさに目を見張り、画面を注視したものです。最近は、ほとんどすべてがカラーによる表現になり、黒白の情報ではどうしても満足できなくなってしまいました。技術を支える科学の進歩の成果でしょう。
 ところで、天文の観測も長い間このモノクローム、黒白の世界でした。プリズムが光を7色に分散することは知られていて、その効果が虹として自然界で見られること、太陽の光がプリズムで分散されて、その中に多くの特長が認められることから始まったのが、天体物理学の発達を支えた天体分光術でした。その成果は非常に大きく、天体の核心に迫るものとして更に大きな望遠鏡の製作に拍車がかけられて来ました。ところで、光も電磁波の中の、ある狭い範囲に過ぎないことが知られるようになり、天文観測でも目で見られる光、可視光より長い波長の赤外線、更に長い電波へと使用される波長域が広がってきました。先ず、電波を使って天体の観測を行う電波天文学。太陽や銀河(天の川)からの電波を受信して始まりました。
 ロケットが天文の観測に使われるようになると、先ず紫色より短い波長の紫外線、更にもっと短いX線へと広がって行き、ついにガンマ線まで到達したのです。
 1987年の2月には、大マゼラン銀河で発生した超新星爆発によって放射されたニュートリノ(粒子)を捕らえて、ニュートリノ天文学が天文学に加わりました。
 今から50年ほど前の1950年代には、天文観測といえば黒白のモノクロームだけの世界でしたが、現在では波長の長い電波から短い波長のX線まで使うことができるようになり、黒白の世界からカラーの世界へと大きく進歩して、得られる情報の質と量が飛躍的に向上したのでした。この結果、宇宙の姿も3次元で理解されてきたのでした。


神々のたそがれ(北欧伝説)

 ワグナーの有名な楽劇に「ニーベルングの指輪」という曲があります。先だって大きな話題になった映画「神々のたそがれ」シリーズも、この楽劇と同じく北欧の古い伝説によったものです。その伝説とは、地底の神々と死者との葛藤が基本になっていて、ある種の地母神の物語とも言えるようです。
 さて、11月にもなると秋も深まり、日脚はずんずんと短くなってきます。野分けと言われる台風の季節も終わり、木枯らしが吹き抜けるのも目の前。北緯35度に位置する日本でも、北海道などでは短い昼間を十分に活用するような生活が始まることでしょう。更に北に位置する北欧では如何でしょう。妖怪変化とまではいかなくても、夜間には「魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)す」と人々が考えたとしても不思議ではありません。そこに登場するのが、地母神的な神の存在ではないでしょうか。天にはオーロラが舞い、地には母なる神があることという考え自体、古代の人々にとっては何ら不思議ではなかったのでしょう。こうしたことを背景に、北欧の文化は発達し、多くの物語や伝説が残されてきたのではないでしょうか。
 ワーグナーの曲をこよなく愛したドイツの有名な哲学者・ニーチェは、「神々のたそがれ」について、神々を畏敬する反面、その神々への密かな反抗、つまり神々へ祈りながらも最後の切り札として、死者を犠牲にして神々が存在すると考えたとき、死者は神々を飢え死にさせることができるような考えが底流にあると考えたそうです。
 わが国に伝わる神話・伝説、さらに一種の歴史書「古事記」。その中に登場するのが出雲の神々ですね。出雲の神々と、高天原の神々(大和朝廷)の葛藤が書き残されていますが、出雲の神として最高の位置にあるのが大国主神(オオクニヌシノカミ)。字が示すのが国つ神、即ち地の神で名前を変えた地母神。北欧とまではいかなくても、厳しい冬を過ごさねばならぬ山陰、陰鬱(いんうつ)なまでに垂れ込めた雪雲。そこに芽生えたのが地母神・大国主だったのかもしれません。厳しい冬がもたらす哲学なのかもしれませんね。その厳しい冬、冬至ももう目前です。



2007年11月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2007年11月の星空です。

秋の四辺形が、頭の真上に見られるようになりました。
西の空にはまだ夏の星が見えますが、
東の空には早くも冬の星が昇っています。

天文カレンダー 惑星たち
   
2日: 下弦(半月)
3日: 文化の日
4日 月の近くに土星が見える(明け方、東)
6日 月の近くに金星が見える(明け方、東)
8日: 立冬(太陽黄経225°)
月の近くに水星が見える(明け方、東)
9日: 水星が西方最大離角で見ごろ(明け方、東)
10日 新月●
18日 上弦(半月)
23日: 勤労感謝の日
小雪(太陽黄経240°)
24日: 月の近くに火星が見える
満月○
水星: 上旬から中旬にかけて夜明け前の東の空に見えます。8日には月、スピカと並ぶ。
金星: 夜明け前の東の空に見えます。マイナス4等の明るさですのでよく目立ちます。
火星: ふたご座にあり、夜半から見ごろになります。赤く輝き不気味に目立っています。
木星: 太陽の向こう側で見えません。
土星: しし座にあります。夜明け前の東の空に見えています。

次回も、お楽しみに

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