天文セミナー 第118回
『見えないところに』『ふたご座流星群』
物事は、何につけても目立つことが大事、という考えが横行しているように思われます。特に、最近は何とかして目立ちたい、という意識が多くの人の挙動に見受けられますネ。ところで、見えないものの代表として挙げられるのが建築物の基礎。天文台の大望遠鏡や、地震の波動を捕らえる地震計などのように精密な観測を行う機器の台座の基礎はどうなっているのでしょう。1920年代に建設された東京天文台を例にしてお話をしてみようと思います。東京天文台を代表する大望遠鏡は、なんと言っても口径65cmの屈折望遠鏡でしょう。また、精密観測を行う望遠鏡としては星の精密な位置を観測・測定して決める子午儀や子午環。さらに時刻を正確に決めるためのPZT(写真天頂筒)、そして最近では重力波を検出するための重力波望遠鏡などを挙げることができます。先ず、65cm屈折望遠鏡。これは焦点距離が1023cmの写真撮影用の望遠鏡に1083cmの焦点距離をもつ案内用の実視望遠鏡が1つの架台にセットされていて可動部分の重量はおよそ6トン。基礎は、長大な鏡筒と架台の全重量を支えます。基礎は、関東のローム層を深く掘り下げ、地下10mのところからコンクリートを打ち込み、周囲は乾いた山砂で埋めてあります。周囲からの細かい振動を砂で消去して望遠鏡の精度を保つ工夫です。同じような工夫が、子午儀や子午環に施されていて、精密な観測を地下から支えてくれています。PZTに至っては、2重に作られた水銀層で水平面を作り、その水銀面で星の光を反射して焦点に結ばせるのです。そして、人が近づくときの振動で水銀面に小波が立たぬように遠くから遠隔操作で観測を行うのです。 |
1983年11月中旬、新天体発見を知らせる1通の国際電報が東京天文台に届きました。当時、大きな話題を呼んでいた、IRAS(赤外線天文観測衛星)が大変早く移動する天体を発見した、という内容です。世界各地の天文台でも早速観測が始められ、その軌道の特異なことに研究者は大きな驚きを感じました。詳しい観測の結果、この天体は「ふたご座流星群」の軌道にとてもよく似ていることが、アメリカの彗星研究者ホイップルによって指摘されました。それまで、流星群は彗星がその軌道に撒き散らした固体の塵が地球に衝突して見られる現象と考えられていましたが、今回発見された天体は彗星状をしていません。さらに、彗星であることを示すような兆候は何一つ観測からは見つからないのです。研究者たちは大いに悩みました。そして導き出した結論は、この天体はかつて彗星であったものが太陽に接近を繰り返した結果、本体(核)から蒸発するようなガスが無くなって、観測では小惑星と区別ができないような状態にあるのだろうということでした。それまでにも、太陽に非常に近づく小惑星状の小天体が幾つも観測されていましたがこれらもすでに彗星状を示さなくなってしまった、言い換えると太陽の近くへ今までに何回も接近してすでに年老いてしまった彗星の亡骸とでもいえる天体だと結論したのでした。 |
次回も、お楽しみに |