天文セミナー 第112回

『台風と高潮』『食のいろいろ』



台風と高潮

 二百十日もことなくすんで・・。今年2006年の二百十日は、先月9月の1日でした。二百十日とは、立春から数えて210日目に相当する日を指します。この頃、台風が襲来して大きな災害がもたらされることから始まった言い伝えと言われています。日本の歴史に残る、蒙古襲来の時に吹いた神風と言われるのが季節風、特に文永の役と称されている1274年10月に吹いたのは台風であったと言われています。
 さて、鳥取県など日本海側ではそれほど顕著ではないと思いますが、太平洋側や瀬戸内海側では、春、4月頃の大潮の頃の引き潮は遙か彼方まで海水が引き、大きな干潟が現れます。これに反して、秋の10月ころの大潮の満潮時には海水が岸辺を洗い、岸壁など水に浸かることがあります。昨年など、瀬戸内海ではこの大潮の時の満潮と台風が重なって海岸付近の住宅などが大きな被害を被りました。研究者が、原因の1つとして考えている現象に、海水と陸地の温度差の影響があるそうです。気温の低い冬に低温になった海水は密度が上がり体積が減少します。また、気温の高い夏に暖められた海水は密度が下がり体積が増します。この結果、春の大潮の引き潮は大きく引き干潟が広くなります。これに引き替え、秋の大潮では、体積を増した海水が海岸に押し寄せ、海岸に溢れるようになります。さらに、この現象に台風の影響が加わると海岸にうち寄せる海水の量は遙かに多くなるのです。台風の大きな特徴として、気圧の低下の現象があります。いわゆる低気圧です。気圧が1ヘクトパスカル上下すると、海水の高さ=潮位が10センチ程変化すると言われますので、その影響は甚大です。最近、多くの人によって言われている言葉に、地球の温暖化と言う現象がありますが、この現象が加わると、潮位の変動はさらに倍加されます。
 佐賀県の有明海には、「月の引力が見える場所」と言うキャッチフレーズで、大きな引き潮を体験できるところがあります。そして、そこの近辺にも台風と高潮がもたらした大きな被害の記録が残されています。地球の温暖化にブレーキをかけたいものですね。


食のいろいろ

 食のいろいろ。最近流行の「地産地消」で使われる言葉と混同されそうです。地産地消も、地域の活性化にはとても重要なことには違いありませんが、ここで言う「食」とは古来言い伝えられてきた「月星を食す」に関わる「天体の食」のことです。
 この食として最も良く知られているのが「日食」と「月食」でしょう。日食は言うまでもなく太陽が月の向こう側で月に覆い隠される現象、そして月食は地球の影の中に月が入り込んで、その輝きが鈍くなる、または月が見えなくなるような現象ですね。古事記の中に見られる「天の岩戸」の物語など直ちに日食を思い浮かべさせてくれます。
 東南アジアに日食を観測に行ったときなど、僧侶や宗教家が欠けていく太陽に向かってお祈りを捧げている姿を見たことがあります。これなど、悪鬼に食べられていく太陽の一時も早い回復を祈っているものと聞きました。
 さて、この食には、いくつもの原因で起きているものがあります。特に多いのが月によって恒星が隠される星食。惑星が月によって隠される惑星食。惑星が太陽のこちら側を通過するときたまたま太陽面を通過するのが観測される惑星の太陽面通過。さらに、惑星の衛星が相互に隠し合う衛星の食と惑星の本体の影の中に入ってしまう食。小惑星が月によって隠される小惑星食。幾つかの恒星が互いに回転し合って、どちらかの星が隠される食変光星。そして、この食の現象を利用して行われている太陽系以外の惑星系探査。これらの食の内、恒星に関わる食を除いて、太陽系の惑星がほとんど同じ平面、黄道面を運動していることによって起きる現象です。
 さて、光の速度は、毎秒30万kmで、この光の速度を超えるものはないことされています。1675年のこと、デンマークの天文学者レーマーは、木星の衛星の食を観測していて食の起きる間隔が変化することに気付きました。そして、光の速度は有限で毎秒30万kmであると発表したのです。それまで、光の速度は無限である、とされていた常識をひっくり返す様な重大な発表です。多くの反論が発表されましたが、ついにレーマーの発見が確認され、現在も毎秒30万kmとして物理学の世界で使われています。食の観測から得られた大きな成果でした。こうして、現在もC(長さ)G(質量=重さ)S(時間)単位の誘導単位の一つとして重要な単位なのです。11月6日には水星が太陽の前を横切る現象が見られます。これなど、小規模ながら立派な日食と言えますね。



2006年10月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2006年10月の星空です。

頭の真上から西側は夏の星空、東側は秋の星空です。
日没が遅くなって、夜の時間が少しずつ長くなってきました。
空気が澄んで、天の川もよく見える頃です。

天文カレンダー 惑星たち
6日: 中秋(旧暦8月15日)の名月
7日 満月
8日: 寒露(太陽黄経195°)
9日: 体育の日
14日: 下弦(半月)
17日: 水星が東方最大離角(夕方西空)
未明、月の近くに土星が見える
21日: この頃オリオン座流星群が見られる
22日: 新月
23日: 霜降(太陽黄経210°)
26日: 金星が外合(太陽の向こう側)
30日: 上弦(半月)
水星: 夕方の西南西の空に見えるがとても低い。日没時の高度は約9度。
金星: 26日に太陽の向こう側にやってくる「外合」となり見ることはできない。
火星: 24日に太陽の向こう側の「合」となり、見かけ上、太陽が近くのため見えない。
木星: 夕方の西の低い空に見えるが、19:00ごろには沈む。
土星: 真夜中の2時ごろに東の空から昇ってくる。

次回も、お楽しみに

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