天文セミナー 第80回

『冬の夜話』『巨人と小人』



冬の夜話

 凍るような晴れた夜、勇気を出して屋外に出て夜空を見上げてみませんか。無数に輝く星々が、寒風にふるえながら呼びかけ、語りかけているように見えます。特に、中国大陸からの高気圧が強く張り出した夜など、星々の瞬きやさえずりは一層激しくなります。
 目を巡らすと、明るく輝き近く感じるように見える星、暗くて遠くにあるように感じる星など様々です。夏の夜空ほど豪華絢爛と言うわけには行きませんが、冬の澄み切った大気を貫いて届く星の光には一種の鋭ささえ感じますね。
 夏冬を通して見られる夜空で最も明るい20個ほどの恒星を1等星、最も暗い星を6等星ときめて、星の明るさを測る物差しの目盛りとしたのはギリシャの天文学者プトレオマイオスでした。屋外に出て、灯火のないところで目を凝らすと夏の夜空に比べると明るい星が多いことに気付くでしょう。そうです、冬の夜空には明るい星たちが多いのです。


冬の星空

淡く見える天の川付近に、
明るい星が点在しています。

 今、仮に総ての星は実際には同じ明るさ、と考えましょう。すると、明るい星は近く、暗い星は遠いことになりますね。同じように考えると、明るい星が多い冬の夜空の方が夏の夜空より近いことになります。私たちの銀河系は、10万光年ほどの直径であることが知られていて、太陽系は銀河系の中心から2.8万光年ほど離れた場所にあるのです。
 夏の夜空でお馴染みのいて座の方向の天の川が明るく輝いているのは銀河系の中心方向に当たるためで、冬の天の川があまり明るくないのは銀河系の縁の方向に当たるからです。そして、そこに輝く星々までの距離も近く近所なので明るい星が多いことになるのです。
 夜空を見上げるとき、星の明るさと密度が夜空の奥行きを教えてくれることに気付きたいものですね。


巨人と小人

 ガリバー旅行記は、多くの人たちが少年少女時代に親しんだ一種の冒険空想物語ですね。リリパット(小人国)渡航記とブロブディナグ(大人国)渡航記は中でも最も親しまれたものでした。大勢の小人や大人の歓待を受けたり、その果てには日本にまでやってくると言う物語ですね。


シリウス

「焼き焦がすもの」との名前の通り、
まわりの星を圧倒するかがやきです。
強烈な輝きを放っているのはシリウスA、
シリウスBは、その輝きの中に埋もれていて
写っていません。

 さて、1844年のことです。恒星の固有運動の観測を行っていた天文学者F.W.ベッセルは、全天で最も明るいおおいぬ座のα星・シリウスの運動が波状であることに気付きました。そして、この現象の説明として見えないほど暗いお供の星(不可視伴星)があり、シリウスとこの見えない星はお互いに共通の重心の廻りをおよそ50年の周期で楕円運動をしているのではないかと考えました。1862になって、光学技師A.クラーク父子はアメリカの海軍天文台に納入する口径65cm屈折望遠鏡のテストに、このシリウスを使いました。クラーク父子は、そこにベッセルが推測したとおりに暗い伴星を見つけたのでした。その後、多くの観測が行われた結果この暗い伴星は太陽と同じ位の質量にもかかわらず半径は太陽の30分の1ほどしかないことが分かったのです。この結果、この星の平均密度は水の4万倍もあると推測されたのでした。最初の白色矮星の発見です。
 そして、現在ではシリウスA、シリウスBとして登録され明るさは-1.43等と8.52等、質量は太陽の2.14倍と1.06倍、半径は太陽の1.76倍と0.016倍、そして平均密度は水の0.55と40万倍と観測されています。
 暗くて小さいが力持ちの星が明るい大きな星を振り回すように互いに公転しているのがシリウスなのです。星の世界の小人の国と巨人の国の物語でした。




2004年2月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2004年2月の星空です。

冬の星たちで、星空があふれています。
惑星たちもたくさん見え、いつもにも増して、
にぎやかな星空です。

天文カレンダー 惑星たち
4日: 立春
8日: 満月
15日: 下弦
19日: 雨水
22日: 新月
29日: 上弦
水星: 明け方の東空低い
金星: 夕方の西空、観望の好期
火星: 夜半前に沈む
木星: 夜半に南中、観望の好期
土星: 夜半前に南中、観望の好期

次回も、お楽しみに

天文セミナーに戻る