天文セミナー 第72回

『星食(掩蔽;えんぺい)観測と海外遠征』『ジューン・ブライド』



星食(掩蔽;えんぺい)観測と海外遠征

 先月のお話を続けることに致しましょう。先月のお話のような観測を、掩蔽の等縁観測と呼びましたが、この観測には幾つかの問題がありました。先ず第1には、月の縁の凹凸の状況や、月の運動理論が確立していませんでした。さらに、地球上の位置を示す座標である経緯度の値が国際的にはマチマチであって統一されていないという問題もありました。
 しかし、これらの問題があるとは言え日本からアメリカまでの距離を求める方法として当時のアメリカ軍が大きな関心を示しました。そして、1950年頃から、当時の東京天文台を機軸にして各地に観測班を出張させて観測の精度を調べ始めたのでした。
 さて、この観測は日本国内ばかりでなく太平洋の島々や、先述のようにアメリカ大陸までに及び、観測地間の距離が測定されました。地球上の幾つかの観測点の間の距離を求めることは、すなわち地球の大きさを測ることに他なりません。私の手元に「さんご礁の島々」と言う一冊の本があります。この本は、この観測に加わって遠くアメリカ大陸まで出かけた私の友人が自費出版したノンフィクションですが、当時の思い出が苦労話と共に語られています。それによりますと、当時の海外出張はアメリカ軍の支えがあったとは言え大変な苦労であったことが覗えるのです。


日食観測記念の碑(久保恭子さん提供)

北海道・礼文島にある記念碑です。

 2002年4月から、地球に関する値が改正され、場所を示す経緯度の値が世界共通になりました。さらに、人工天体によって観測の精度が向上し、最近ではカーナビなどでお馴染みの GPS、全地球測位システムが利用されるようになって地球上の位置も一段と精度が上がり、また容易に求められるようになりました。そして、時計さえも標準電波によって規制され1秒の誤差もないようなシステムが開発され、多くの人の腕に巻かれて時を刻みます。地球を測ることは、大昔から現在に至るまでの大きな問題でした。そして、1948年5月9日の北海道礼文島の皆既日食を期に開始された短波による精確な秒信号の放送と、地球規模での座標・経緯度の決定だったのでした。


ジューン・ブライド

 June bride。6月の花嫁。言葉のいわれは、ローマ神話の結婚の守護神ユノ(Juno)に因んでいます。ところで、この6月を表す言葉、例えばラテン語ではMaius(マイウス)、フランス語ではjuin(ジュアン)、英語のJune(ジューン)も元はと言えば、やはりこのローマ神話のユノに由来するとも言われています。ローマ神話のユノについては、皆さんはもう既に良くご存知のはず。


おとめ座

目印は1等星スピカ。
その他に明るい星が少ないので、
星座の姿を結ぶのは、かなり難しいです。

 ところで、今月の夕空を見上げて見ましょう。西に傾いたしし座、その北には大熊座。しし座に乗りかかっているのが大熊座ですね。そして、しし座はまもなく西の地平線に沈み、見えなくなくなります。冬から春へと季節が進むとしし座は一休み。その位置を次のおとめ座に譲ります。
 そうです、6月の花嫁「乙女座」の出番なのです。潤みがちな春の宵。真珠色に輝く南天の1つ星スピカ。清浄無垢そのままに輝きます。そして、今月は夏至が控えています。北欧で、最も楽しいお祭りとされているのが夏至祭。短い夜を村中で騒ぎまわり、踊りまわったことでしょう。妖精たちが、森の中で活動するのも夏至の頃。
 あの有名なイギリスの劇作家・ウイリアム・シェイクスピアの「真夏の夜の
夢」の舞台です。乙女座の東、てんびん座で光る半月を弓に見立てて、乙女座のスピカ、つまり乙女のハートを射ようというわけです。まさしく、6月の花嫁、
ジューン・ブライドですね。




2003年6月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2003年6月の星空です。

おとめ座がちょうど真南に見えます
南東の空には、早くもさそり座が昇ってきました。

天文カレンダー 惑星たち
3日: 水星が太陽の西で最も離れる
6日: 芒種(太陽黄経75度)
8日: 上弦
 14日: 満月
21日: 下弦
22日: 夏至(太陽黄経90度)
24日: 土星が太陽の方向
30日: 新月
水星: 明け方の東天、3日西方最大離角。
金星: 明け方の東天低い。
火星: やぎ座からみずがめ座へ、夜半前に上る。
木星: かに座からしし座へ、夕方の西空、夜半前に沈む。
土星: 24日太陽と合、見えない。

次回も、お楽しみに

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