天文セミナー 第64回

『2匹のどじょう』『都ぞ弥生・北辰斜めに』



2匹のどじょう

  「二百十日も事無く過ぎて」。昔の人が台風による農作物の被害を恐れて言い伝えた言葉です。今年の二百十日は9月1日。しかし、台風の上陸と被害が集中するのはやはり10月かも知れませんね。
 1975年10月6日。前夜、日本各地を荒らしまわった台風も通過した日のことです。当時、東京大学東京天文台で国内と国外から来る新天体に関わる情報の授受に携わっていた私は、国内から新彗星発見の電報を受け取りました。よく見ると、同じ人が立て続けに2個の新彗星を発見したと言う内容でした。すっかり驚いて、早速ご本人に確認のための電話をかけました。その結果は、本当に2個の新彗星。引き続いて国内の何人かの彗星捜索者からも情報が入ってきたのです。
 2個の新彗星を発見したのは岐阜県に住むアマチュアです。そして、発見の時間差は0.04861日、時間に直すと1時間10分。それまでの最短の時間差でした。
 「柳の下にどじょう」。川岸に立つ柳の木の下の薄暗がりには「どじょうが潜んでいることがある」と言う昔からの言い伝えですね。夜空の一隅にひっそりと潜んでいたかもしれない彗星が台風一過の快晴の下で1度に2個も見つかったのです。それ以来、この発見を私は「柳の下に2匹のどじょう」と評して讃えているのです。

   最近、アマチュアによる新彗星の発見数が減少していると言われることがありますが、台風一過の快晴の夜空で未発見の新彗星が出番を待っているかも知れません。要注意。


都ぞ弥生・北辰斜めに

 「都ぞ弥生の雲紫に・・・」。北海道大学が札幌農学校と言われていた頃に作られ、今なお親しまれ歌い続けられている北大の寮歌です。この歌詞を読むとき、第一節に「星影冴(さや)かに光れる北を・・・」、さらに第二節には「さやめく甍(いらか)に久遠の光 おごそかに北極星を仰ぐかな」と、歌われていることに気づきます。
 また、「北辰斜めに指すところ」と歌うのが、現在の鹿児島大学で元の第七高等学校の寮歌です。地図を見るまでもなく、札幌と鹿児島ではおよそ13度ほど緯度の差があります。緯度の高い札幌では、北極星は仰ぎ見ることに、そして鹿児島では北極星の光は斜めに差しているのです。この事実は、きっと当時の学生が自ら体験して詠み上げたに違いないのではないでしょうか。鋭い観察眼に敬服しますね。



北極星の高さの違い

同じ条件で北極星を撮影しました。
北海道と鹿児島で、見える高さがかなり違います。

 ところで、日本各地に祀られているのが「妙見菩薩」。この妙見菩薩が実は北極星信仰の北辰信仰であり、北斗信仰でもあるのです。
 西暦紀元前五百年ころの中国。孔子が著した書に「論語」があります。この、論語の中に「北辰」と書かれているのを見つけることができます。
 さて、地球はいわゆる「味噌すり運動」と言われる現象で、自転軸の方向が星空の中で移動します。歳差運動と呼ばれる現象です。この歳差運動の結果、孔子が見た夜空の北極の方向には、目ぼしい星はありませんでした。つまり、孔子によると「北辰」は、北極星ではなく、北天の不動の場所、つまり地球の自転軸が指す天の決まった場所だったのです。 妙見菩薩の在す場所。北辰と北極星が同一視されるようになったのは遥か時代が下ってからのことでした。



2002年10月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2002年10月の星空です。

夏から秋へと、星空も移り変わってきました。

天文カレンダー 惑星たち
6日: 新月、水星が留
8日: 寒露
10日: 金星が留
11日: 土星が留
13日: 上弦、水星が太陽の西で最大離角
21日 満月
23日: 霜降
29日 下弦
31日: 金星が太陽のこちら側
水星: 明け方の東空、13日最大離角
金星: 夕方の西空低い
火星: 明け方の東空
木星: 明け方に南中
土星: 夜半前に上る、観望の好機に入る

次回も、お楽しみに

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