天文セミナー 第59回
『トロイア戦争』『南十字と北斗星』
先月登場したアルゴ船が活躍したのはトロイア戦争。ホメロスの叙事詩「イリ アス」に書き残されています。そして、この物語はギリシャと現在のトルコにあ ったトロイアの間で戦われました。アガムメノンの率いるギリシャ軍が10年間 の攻囲のすえ、木馬の中に兵士を潜ませると言う計略でトロイアを攻略したと言 うのです。 1999年、私はトルコを訪れました。トロイの木馬の物語を頭に描きながら の旅でした。1870年にシュリーマンがトロイに古代都市の遺跡を発見し、こ のイリアスに記述されている事柄が実際にあったことが証明されたのです。 ところで、太陽系の仲間の内、小惑星と呼ばれる無数の小天体があります。そ の中の多くは、火星と木星の間を運動していますが、木星と同じ軌道を木星の前 後に60度づつ離れて運動している幾つかの小天体が発見されました。小さい天 体が木星に近づくと、木星の強い引力で引き付けられ安定した軌道を保てませ ん。しかし、ある特殊な条件の下ではその軌道が安定することが分かりました。 そして、その場所は太陽からみて木星の前後に60度離れた場所です。現在で は、この問題を解いた学者の名前を付けてラグランジュの平衡点と呼ばれていま す。
木星は、宇宙で最も偉い神、ジュピターと呼ばれています。そこで、木星の前後を運動するこれらの小天体につけられた名前がトロヤ群。ジュピターの子孫がギリシャ方とトロヤ方に別れて戦ったのがトロイ戦争だったからです。そして、木星の前方の群と後方の群に分けてギリシャ方の英雄とトロヤ方の英雄の名前がそれぞれに付けられたのです。 |
「南十字と北斗星 連ねて広き・・・・・・」。昔、第二次世界大戦の頃、小学生や中学生の間で親しまれた歌の一節です。私の脳裏に、はっきりと刻まれたのが南太平洋の広々とした夜空の南に見える南十字座、そして北の空には大きく柄を跳ね上げた北斗七星の姿。何と雄大な星空なのだろう、と長年思い続けていたのでした。
目を北に向けると地上30度ほどの空に北斗七星、南に目を転じるとやはり同じように見える南十字。星空が車の両輪のように、自分を車軸にして回転しています。理屈では分かっていても感動の一瞬でした。星図を見ると、ほとんど同じ経度で南北に離れているのがこの北斗七星と南十字。天の大きさと共に、地球のサイズを知ったような気持ちになったのでした。この北斗七星を柄杓にたとえる慣わしがありますね。そうすると、今月の北斗七星はさしずめ水を満たした斗を下向きに、やがて梅雨の季節が到来することを予告しているかのようには見えませんか。 |
次回も、お楽しみに |