天文セミナー 第56回

『寿老人と福禄寿』『雪の降る町を』



寿老人と福禄寿

  私が住む岡山県倉敷市玉島。ここは、古くは備中藩の藩港として栄えた港町でした。町の中央に祭られているのが当時の藩主が出羽の国から勧請した羽黒神社。この羽黒神社は町の氏神として多くの氏子に親しまれています。拝殿の天井に描かれているのは、干支で表された方位盤。拝殿が正しく南面し、参拝者は北向きに拝みます。拝殿の奥には、当然のようにご神体を祭る本殿があり、この本殿の金網で囲われた欄間には、木彫りの七福神が祀られています。羽黒神社と七福神のかかわりについて、私は詳しいことは知りませんが、欄間の七福神が地上に石彫りの姿で降り立っているのです。
 七福神。年初に縁起物として飾られる宝船に乗っていますね。今年2月。私は、郷里で寿老人と福禄寿に会いに出かけようと、町内の人に誘いかけることにしてます。七福神の中では、二人に分割されていても元来は同一人物なのが、寿老人と福禄寿。お話の原点は、中国の古い言い伝えなのです。古代の中国の中心は長安。この地で冬の南空低く見える明るい一つの星がありました。地平線上で、ほんの短時間しか見えない南の一つ星。言い伝えによると、この星を見た人は長寿が約束されるといい、南極老人星、と呼ばれるようになりました。この星物語が日本などに伝わり、七福神のメンバーに加わったのです。
 ところで、この南極老人星とは、現在カノープスと言う名前で親しまれているりゅうこつ座のα星なのです。天の赤道から南へ52.7度の場所にあるこの星は、北緯37度ほどの場所で地平線と一致して、見えなくなります。長安では、この星が地平線のわずか上に見られたのでこのような言い伝えができたのでしょうね。


ハワイ マウナ・ケア山中腹でのカノープス

ハワイの緯度は約20度。日本では地平線ギリギリに見えるカノープスも
ここではたっぷり、しかも明るく見ることができます。

 中国地方の古老の話によると、岡山県などでは讃岐(香川県の古称)の横着星、と呼ぶそうで、さらに香川県では土佐の横着星と呼ぶそうです。高知県では、なんと呼ぶのでしょうかね。 このカノープスは、りゅうこつ座の主星として、マイナス0.7等の明るい星で、青白く輝いているのですが、地平線近くなので黄色に変色して見えます。長生きをしている老人と見られたのでしょうね。南半球で見た、頭上に輝くこの星の強い光が印象的でした。


雪の降る町を

 「雪の降る町を」という昔懐かしい歌があります。雪を見ていると歌声が聞こえてくるようです。2月は、降雪の最も多い季節ですね。日本海側は、連日の雪。多いときには軒先までの積雪を見ることになり、太平洋側は乾いた北風が通り過ぎて行きます。強く発達した中国大陸の冷たい高気圧が張り出し、日本もこの冷気にすっぽりと覆い尽くされ、さながら冷凍庫の中にいるような寒さに包まれます。
 夜空に輝く星々も雪国ではその姿を見せてくれなくなりますが、寒風の吹きぬける太平洋側では激しく瞬きを交わします。童謡、きらきら星の世界です。
 長い東京生活の後、日本海側の天文施設で星を見る機会が多くなった私は、雪国での星見の難しさを強く感じたのでした。ところが、降雪の後の晴れ上がり。雪に取り除かれた空気中のほこり。空はあくまでも透明。遥か彼方の山並みがくっきりと浮かび上がるのもこの季節の晴れ間。その夜、凍てついた大地を踏みながら観測にとドームに向かいます。

スリットからのぞく冬の星たち

佐治天文台の観測室から撮影したものです。
スリットの向こうには、オリオン座が見えています。
この写真は、1997年12月31日、観測の合間に撮影しました。

 スリットを通して見える星々は、自身の存在を強く主張しているようです。降雪の後の晴れ間に太古の昔の星空が返ってくるのです。そして、このチャンスを逃してなるものか、と天文台のドームが観測のために開かれるのです。



2002年2月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2002年2月の星空です。

冬の星たちが絶好の見ごろです。

木星・土星もお忘れなく。

天文カレンダー 惑星たち
4日: 立春。下弦
8日: 水星と土星が留
12日: 新月
19日: 雨水
20日 上弦
22日: 水星が西方最大離角
27日: 満月
水星: 明け方の東南東、22日西方最大離角
金星: 夕方の西南星、低い
火星: 21時過ぎに沈む
木星: 観望の絶好期
土星: 夕方南中、観望の好期

次回も、お楽しみに

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