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特集
「認知症になっても大丈夫!」と言える鳥取市へ
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今年6月、本市在住で、認知症とともに自分らしく暮らし、自らの経験をもとに認知症本人にとって希望につながる情報発信などの活動をしている藤田和子さん、松本豊子さんのお二人を鳥取市認知症本人大使「希望大使」として委嘱しました。
「住み慣れた地域で自分らしい生活を送れる” 地域共生社会”」の推進へ大きな力となる二人に、自らの経験や認知症への思いを伺いました。
~認知症本人大使「希望大使」とは?~
認知症の人やこれから認知症になる人の希望となり、自らの経験や思いを発信して認知症に関する普及・啓発活動を行う認知症本人のこと。国や自治体が任命しています。
認知症に対するイメージを変えたい
10年前に認知症と診断された松本さんは、「診断されたときは、『もうこれでおしまいだ』と落ち込みました。認知症といえば、『何もかもできなくなっていって、大体10年で寝たきりになって死んでしまう』という情報しかありませんでした。何か良い情報はないかと、認知症の本人が書いた本をたくさん読む中で、自分らしく前向きに暮らしている藤田さんが書いた本に出会い、『こんな人もいるのか』と知ることができました」と当時を振り返ったうえで、「今でも、『認知症は一人でどこかに行ってしまったり、何もできなくなってしまう悲しい病気』という間違ったイメージがあります。今まで通り話をしたりお出かけをしたり、普通に生活を送れることを知ってもらいたい」と思いを語ります。
藤田さんは、14年前に若年性アルツハイマー病の診断を受けました。「認知症になっても、能力がゼロになってしまったわけではないので、工夫して生活すれば能力が落ちているなりに生活は維持できるし、普通に会話もできます」と語ります。
藤田さんは、認知症の本人となって、世間には認知症に対する誤解や偏見がたくさんあることを感じたと言います。「認知症になってからも、希望と尊厳を持って暮らせる社会に変えていきたい」と周囲に伝え、同じような思いを持った認知症の本人たちと出会う中で、「私だけが違和感を感じていたわけじゃなかったんだ、私の思いに間違いはなかったんだ」と思い啓発活動を続けています。
希望大使になったことについて二人は、「生き生きと暮らしている私たちが『認知症になっても大丈夫だよ』と発信することで、『そういう人もいるんだ』と知ってもらえるきっかけになり希望を持ってほしいし、それが希望大使である私たちの役割だと思っています」と意気込みを話します。
家族のサポートが幸せ
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認知症と診断されたことで、家族も一緒に不安を抱えた時期がありましたが、家族で認知症を受け入れ、より良い生活に向けて共同作業をしてくれたと、二人は家族のサポートに感謝し、大切さを語ります。
以前松本さんは、買い物に行った際にカバンをなくしてパニックになったことがありました。家族は「買い物に行かないで」ということは言わず、買い物に行きたい松本さんの気持ちを尊重するためには、どうしたらいいかを一緒に考えて支えてくれたそうです。
藤田さんの家族も、診断後も変わらず藤田さんと接して必要以上の手出しをせず、失敗しても責めない関係だったと言います。藤田さんは「失敗したときに本人の行動を制限してしまうと、本人はどんどんやる気や機能を低下させてしまいます。認知症を家族で一緒に受け入れ、一緒に悩んで、気持ちをくんでくれることが本人にとって幸せだしありがたいです」と語ります。
認知症がスタンダードになる社会へ
藤田さんは、認知症の家族を介護していた経験もあり、介護者の大変さを知ったうえで「認知症は大変だと言っていても、これから認知症になる人が生きづらい社会になっていくだけ。そうではなく、必要なのは誰が認知症になっても自分らしく暮らせるまちづくりです」と話します。
藤田さんのことを「仲の良い認知症友達です」と言う松本さんは「これからさらに認知症の人は増えていくと思いますが、悲観するのではなく、認知症がスタンダードになった社会で『あなたも認知症ですか、私もです』と明るく言い合える認知症友達を増やしていきたいです」と笑顔で語ります。
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認知症本人同士の交流の場
認知症の本人同士が出会い、交流できる場として認知症本人ミーティングがあります。そこでは、認知症の本人同士が感じていることや、生活の中で工夫していることなどを伝え合い情報交換をしています。
藤田さんは、「認知症本人ミーティングで定期的に集まることで、認知症本人にとって『話す』『聞く』ということが良い刺激になるし、自分の思いは何だったのかを考えるきっかけになっています」と、本人同士の交流の重要性を強調します。認知症本人ミーティングでは、例えば、話すことが苦手で自分からはあまり話さなくても、家に帰ってから「自分の思いを深められてよかった」と感想を話す人もいます。
年齢に関わらず違和感があれば受診を
二人は、「文字が読みにくい・書きにくい」「同じことを何度も言う」「今までスムーズにできていたことがつまづくような感覚や違和感が頻繁に起きたり、長期間続く」などが認知症を疑う症状であり、この症状がみられたら年齢に関わらず受診をしてみるべきだと呼びかけます。
認知症は早期発見により進行を遅らせることができるため、早期受診がまずは重要です。
鳥取市認知症フォーラム2021(オンライン開催)
認知症地域支援推進員にお声がけください!
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各中学校区を担当する認知症地域支援推進員が、各地域包括支援センターなどに配置されています。認知症になってもよりよく暮らしていけるよう、認知症の本人・家族への支援、地域でのネットワークづくり、認知症の啓発活動などを認知症の本人の声を聞きながら、ともに活動しています。お気軽にお声掛けください。
認知症の本人同士が出会える場所があります
【おれんじドアとっとり】
「もっと早くに仲間に会って話したかった」「これから診断を受ける人に、できるだけ早く希望が持てる情報(本人にとって良い情報)を伝えたい」という本人の声から生まれた、認知症本人相談員によるピアカウンセリングの場です。予約制で、お一人ずつゆっくりお話ができます。
- とき
- 毎月第4木曜日(※9月は30日)10時~12時
- 場所
- 渡辺病院 南館1階(東町三丁目307)
【オレンジカフェ】
「認知症になっても安心して暮らせる鳥取市」をめざすオレンジカフェは心地良く過ごせて、やさしさと笑顔があふれる場所です。人と人とのつながりを大切に、地域での暮らしを応援しています。『信頼できる仲間に出会え、楽しくおしゃべり』『歌に体操など、心も身体も元気になれる』『モヤモヤをリセットして、また明日から頑張ろうと思える』そんな場所です。認知症に関心のある人は誰でも気軽にご参加ください。現在市内に10 か所のカフェがあります。開催状況がさまざまですので詳細はお問い合わせください。
【認知症本人ミーティング】
認知症の本人が集まり、自分たちの暮らしや地域社会をより良いものにするために話し合っています。本人以外は周囲で傍聴し、自分たちの活動に生かせることを考えています。あなたの言葉で、ともに社会を変えていきましょう。
- とき
- 偶数月
※詳細な時と場所はその都度変わりますのでお問い合わせください
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認知症本人ミーティングでは、「買い物でお金をきちんと払えるか心配で緊張する」「自分がしたいことのやり方を一緒に考えてくれる人がいると安心できる」など、本人同士が感じている気持ちを伝え合っています。